俺様御曹司と蜜恋契約
横浜へ遊びに行こう。
そう陽太に誘われたのは高校の卒業式の次の日だった。
昼間は買い物をしたり赤レンガへ行ったり海に面した公園のベンチでぼんやりしたりして過ごして、夜は学生でも気軽に入れる洋食屋で食事をした。このまま帰るのかなと思ったら、観覧車に乗ろう、と陽太に言われたから驚いてしまった。だって陽太はたしか高いところが苦手なはずなのに。
観覧車乗り場へ続く階段には休日ということもあってカップルがたくさん並んでいた。私たちもその列に混ざってしばらく待つとようやく順番が回ってきた。乗り込んだ観覧車からはきらきらとした横浜の夜景が広がっていて。
特に会話をすることもなく2人でただ夜景を眺めていた。それだけでも私はとても幸せだった。ずっと片思いしている相手とこうして2人きりで遊びに来ることができて一緒に素敵な夜景を見ることができる。幼馴染という関係が壊れてしまうのがこわくて想いを伝えることはできないけれど、これからもこうして陽太の隣にいられるだけで私は十分に幸せだった。
『あのさ、花』
もうすぐ観覧車の一周が終わろうとしているところで陽太が口を開いた。
『やっぱ何でもない』
けれど、何かを言いかけて口を閉じてしまった。
今ならあのとき陽太が私に何を言おうとしていたのかが分かる。どうして私と2人だけで出掛けようとしたのかも。
もしもあのとき陽太が自分の気持ちを伝えてくれていたら。私が伝えることができていたら。きっと私たちの関係は幼馴染から恋人へ変わっていたと思う。