俺様御曹司と蜜恋契約



そして今、私の足元には横浜の夜景が広がっている。

さっきまでホテルのレストランから見ていたはずの観覧車になぜか葉山社長と乗っていて。

ゆっくりと進む観覧車は乗っていると動いていることをあまり実感できないけれど、徐々に小さくなっていく建物たちが少しずつだけど観覧車が上昇していることを教えてくれる。

「観覧車なんて初めて乗るな」

向かい合って座る葉山社長は狭い観覧車の中で少し窮屈そうに長い足を曲げている。

「乗ったことないんですか?」

「ああ」

頷きながら葉山社長が窓から下を覗き込み「たけーな」と声を漏らした。それから私を振り返る。

「一度は乗ってみたかったんだよな。可愛い彼女と観覧車」

「……乗れば良かったじゃないですか」

葉山社長なら過去にそういう女性がたくさんいたはずだし、今だって私じゃなくてもまわりに『可愛い彼女』なんてたくさんいるはずなのに。

「まぁそうなんだけど。俺のデートコースって食事のあとはすぐにホテルへ直行なんだよ」

「…………」

ホテルへ直行って……。
聞かなくても分かる。この人の今までの言動や態度、耳にした噂話から考えるとホテルですることはたったひとつだ。

「ああそうですか」

呆れたように呟いて私は窓の外へ視線を移した。すると葉山社長がふっと小さく笑いながらぽつりと言葉をこぼす。

「お前となら乗れるような気がして」

「え?」

「いや。何でもない」

それってどういう意味…?

葉山社長へ視線を戻せば、彼の視線は窓の外の夜景へと向けられていて。しばらくその横顔を見つめてから私も窓の外へ視線を変えた。


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