俺様御曹司と蜜恋契約
きらきらと輝く横浜の夜景。

あの日と同じように観覧車からそれを眺めているとつい陽太のことを思い出してしまう。


高いところが苦手なはずの陽太があの日、観覧車に乗ろうと言ったのは夜なら暗くて景色があまり見えないからだった。観覧車が高く上っても暗闇の中でならその高さをあまり意識しないと思ったから。
でもやっぱりこわくて観覧車から見える夜景に『きれいだな』と呟きながらもその手は私の手をぎゅっと握っていて。汗ばんだその手に『陽太の高所恐怖症は治らないね』とからかったように言えば、ムスッとした表情で『うるせぇ』と返されたっけ。


思い出して思わずくすっと笑ってしまう。

もう6年も前のことなのに。
まるで昨日のことのようにはっきりと思い出すことができる。

だめだなぁ。

思い出すと切なくなって胸がきゅうっと締め付けられる。

幼馴染なんだから陽太との思い出なんてたくさんある。楽しかったはずの思い出も今では思い出すたびに切なくなってしまって。

私はどうしたら陽太への想いを忘れることができるのだろう……。

陽太と一緒に観覧車から見たときと同じ、きらきらとした夜景がだんだんと涙で霞んでいく。こんなところで泣いたらいけないと思うけど、切ない感情は心の中でじわじわと広がっていって。

私はもう二度と陽太とこんなふうに観覧車になんて乗れないんだ……。


「――花」


名前を呼ばれてハッとなる。葉山社長が私のことをじっと見ていた。

「お前なに泣いてんの?」

「……泣いてません」

そう言いながら目元の涙をぬぐう。その仕草に葉山社長が小さく笑った。

「泣いてんじゃん」

「泣いてません」

ぬぐってもぬぐっても涙は止まってくれなくて。なぜかどんどん溢れてきてしまう。こんなところで、この人の前で泣きたくなんてないのに。

いつの間にか観覧車は頂上を過ぎていて、ゆっくりと下に向かって進んでいた。
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