俺様御曹司と蜜恋契約
森堂商店街はうちが経営する『ゆもと食堂』の他にも30店ほどの小さな商店が軒を連ねている。歴史は古くどのお店もこの場所で長く商売を続けていた。

再開発ということはそれらの商店が全て取り壊されてしまうということで…。

「森堂商店街、なくなるの?」

私の声が震えていた。

小さい頃から当たり前のようにあった商店街。それはこれからも変わらなくてずっとこの場所にあると思っていたのに。再開発で壊されてしまうかもしれないなんて。

「大丈夫よ。まだ正式に決まったわけじゃないの。もちろん商店街側は再開発には反対しているし、みんなこれからもこの場所でお店を続けていきたいと思ってる」

でもね…と母親の表情が曇る。

「再開発を計画している会社が大きなところでね。私たちに太刀打ちできるかどうか…」

「それってどこの会社なの?」

気になって訊ねると母親が一瞬だけ私から視線を逸らしたのが分かった。そして言い辛そうに口を開く。

「葉山グループよ」

「……えっ?」

「花ちゃんが勤めている会社だから言えなかったのよ」

「……っ」

私はどう返したらいいのか分からずに口を閉じた。

葉山グループは日本を代表する大手流通会社で国内に百貨店やショッピングセンター、食品スーパーなどを多く展開している。

私はそこの子会社である葉山物流という会社に勤めている。仕事は主に葉山グループのグループ会社が独自に開発・製造している食品や日用品、衣料品などのオリジナルブランドの商品を保管・管理して全国に展開している葉山グループの各店舗に振り分けている。私はその会社で事務員をして今年で5年目だ。

まさか自分の勤めている会社の親会社が森堂商店街の再開発を計画していたなんて。

なんだかとても複雑な気持ちになってしまう。



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