俺様御曹司と蜜恋契約
名前で呼ぶことを渋っていると、突然、肩に腕を回され引き寄せられた。

「わっ」

歩きながらだったのでついよろけてしまい葉山社長の体にぶつかてしまう。そのまま肩を抱かれながら体を密着させて歩く。

「呼んでみ俺の名前。光臣ってさ」

耳元で聞こえた低い声に思わずドキッと心臓が跳ねた。

「名前で呼んでくれないとキスするけど」

「――っ」

その声に顔を上げれば意地悪そうな顔で笑う葉山社長と目が合った。

「ほら早く」

ここまで拒んだせいか何だか今更その名前を呼ぶのも恥ずかしくて、頑なに口を閉じてしまう。

「あっそう。言わないってことはキスされたいってことか」

「ち、違います」

私たちの他にも通行人がいる中でキスなんてされたくない。

「呼びます、名前」

慌ててそう言ってからふぅと長く息を吐く。

そういえば男の人を名前で呼ぶのは陽太以外では初めてかもしれない。そう思ったらなぜか緊張してしまって。

すると葉山社長が声を出して笑いだした。

「名前呼ぶだけでなに緊張してんだよ」

そう言って、頭をくしゃりと撫でられた――そのときだった。


「あれぇ。もしかして光臣?」


どこかから女性の声が聞こえた。

振り向くと一人の女性が顎に人差し指をちょこんと乗せて首をかしげている。

「ああ!やっぱりそうじゃん。光臣だぁ」

くるくると巻かれた栗色の髪。暗闇でも目立つほどの派手な化粧。胸元が大きく開いたワンピースは下着が見えてしまうんじゃないかと心配になるくらい丈が短い。

ヒールの高い靴をコツコツと鳴らしながら女性がこちらに向かって歩いて来る。

「おお。マミじゃん」

どうやら葉山社長もこの女性のことを知っているらしい。

ということは二人は知り合い?

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