俺様御曹司と蜜恋契約
すると持田さんが教えてくれた。

「視察らしいよ」

「視察?」

「そう。定例会議の内容を見に来たらしい」

「そうなんですか…」

この会社に入って5年目だけど、定例会議にグループ全体の社長が見に来るのは初めてかもしれない。葉山社長のお父様の前社長だって来たことなかったのに。

「急に葉山社長が来たから部長たち大慌てだよ。さっき着いたばかりの葉山食品の人たちも焦ってた」

たしかにそうかもしれない。普段から行っている会議に何の知らせもなく突然グループのトップが来たんだから驚いて慌てるのが当たり前。

そんなことを思っていると、制服のポケットに入れていたスマホが振動を始めた。静かな会議室にブーブーという振動音が響く。

誰からの電話なのか分からないけれど仕事中だし出ないでおこうと思ったけれど。

「出れば?」

持田さんに促されてポケットからすまほを取り出せば、着信画面に映し出されていたのは今まさに噂をしていた人物で。

「もしもし……」

「よぉ、花」

葉山社長からの電話だった。

「お前どこにいるの?」

「どこって会社ですけど」

「俺も同じところにいんの。なんかすげー狭い部屋に通されたんだけどちょっと顔出せよ」

「え?」

と、同時に会議室の扉がまたも勢いよく開かれた。

「ゆ、湯本くんっ!」

現われたのは額に汗を浮かべた穂高部長だった。

「早く来て」

部長の真ん丸とした手が私の手首を掴む。

「部長?」

手にしていたスマホをポケットにしまいながら、私は穂高部長の手に引っ張られるようにして会議室を後にする。穂高部長にしては早い足取りでそのままずんずんと廊下を進んで向かった場所は―――。



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