俺様御曹司と蜜恋契約
「よぉ、花!」

へらへらと笑っている葉山社長のいる応接室だった。

6畳くらいの狭い部屋に二人掛けのソファが向かい合って置いてありその間にテーブルがあるだけの簡素な部屋。

葉山社長はソファの背もたれによりかかりどっかりと腰を降ろしている。その向かいに背筋をピンと伸ばして座っているのはたしか葉山社長の秘書の佐上さんだ。

「ゆ、湯本を連れて参りました」

廊下を小走りで来たせいか穂高部長の息があがっている。

「ご苦労様。穂高部長はもういいよ。あと佐上、お前も」

葉山社長がしっしと手で追い払うような仕草をすると、2人は一礼してから部屋を後にした。佐上さんだけは何か言いたそうに振り返ったけれど、何も言わずに外へ出て扉を閉めた。

「花はここ」

2人きりになった応接室で葉山社長は自分の座っているソファの隣をぽんぽんと叩く。なんとなくそれに従うのが嫌だったので、さっきまで佐上さんが座っていた向かいの席に腰を降ろした。そんな私に葉山社長がムッとしたような表情を見せる。

「ったく」

そう呟いて、わざわざ私の隣に移動してきた。しかもその距離ゼロセンチ。すぐ真横に座り体をぴったりとくっつけてくる。

「葉山社長。近過ぎです」

「別にいいじゃん。今は2人きりだし」

でもここは会社なのに。

はぁ…と思わず深いため息がこぼれてしまう。

「そういえばこの前ちゃんと帰れた?」

ふと思い出したように葉山社長が言う。

たぶん金曜日のことを言われているのだとすぐに気が付いた。

「はい。電車で家まで帰りました」

「電車?タクシー使わなかったの?」

「はい。なので頂いた5万円はお返しします。今持ってくるので待っていてください」

葉山社長に会ったらいつでも返せるように持ち歩いている。封筒に入れてロッカールームに置いてあるのでそれを取りに行こう腰を浮かすと手首を掴まれ引き戻されてしまった。
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