怨み赤子
数日後、真治から呼び出されたあたしは廊下へ出ていた。


休憩時間で他の生徒たちも行きかう中、「困るんだけど」と、目を吊り上げて言って来たのだ。


何の事だかさっぱりわからないあたしは瞬きを繰り返して真治を見た。


「勝手に文化祭の資料にビラ配りの事とか書かれたら、俺のメンツ丸つぶれだろ」


大きな声でそう言う真治にあたしはキョトンとしてしまった。


真治は一体何を言っているのだろう?


資料にビラ配りの事を書いたのは田辺先輩だし、真治にもその事を伝えていて、了承を得ているのに。


「君が勝手な事ばかりするから、俺は周りから文句を言われて困ってるんだ」


「は……?」


いつ、どこであたしが勝手なことしたの?


驚きすぎて返事もできないあたしに、真治は畳み掛けるように言葉を続けた。


「次のミーティングの時に俺から言おうと思ってたのに」


それはまるで小学生の言い訳のようで、あたしは呆れてしまった。


真治の顔を面と向かって見るのも嫌で、視線を逸らす。


欠伸をかみ殺し、まだ何か騒いでいる真治を無視して教室へと戻る。


あたしは真治に構っている暇などないのだ。


次の作品を描きたいと思っているし、次のコンテストだってある。


「月乃! なんの用事だったの?」


そう言いながら駆け寄って来るカナミにあたしは「なんでもない」と、返事をしたのだった。
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