怨み赤子
☆☆☆

あの時の出来事を思い出しながら歩いていると、いつの間にか教室は目の前だった。


文化祭の教室とは違うのに、少しだけ緊張している自分がいた。


今にもあの会話が聞こえてきそうで耳をふさぎたくなる。


でも……あたしはもう、あの頃のあたしじゃないんだ。


グッと背筋を伸ばし、教室のドアに手をかける。


勢いをつけてドアを開けると、見慣れたクラスメートたちの笑顔が出迎えてくれた。


「月乃おはよう! なんだか昨日よりももっと綺麗になった?」


カナミがそう言いながらあたしの頬に触れる。


「うわ、すっごいスベスベ! 基礎化粧品変えた?」


「別に、変えてないよ?」


小首を傾げながらそう返事をする。


「本当に? 昨日から全然違うよねぇ」


他のクラスメートたちもそう言いながらあたしに近づいてくる。


あたしはすでにその意味を知っていた。


あたしを生んだ母親よりも、あたし自身の方が魅力的なのだ。


人を怨めば怨むほど、あたしは美しく、そして才能も大きく開花していく。


あたしはチラリと教室の後方へ視線を送った。


真治と教の2人がアニメ雑誌を広げて読んでいるのが視界に入る。


目が合うと真治はいつもと変わらぬ様子で笑顔を浮かべ、教はあたしからすぐに視線を逸らせた。
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