怨み赤子
いつの間に教室へ戻ってきたのか、そこには教がいた。


教は気まずそうな視線をあたしへ向ける。


教と目が合ったのは去年の文化祭以来かも知れない。


「有川さん……」


教はおずおずとあたしの名前を呼んだ。


「なに?」


あたしは教の前まで歩いて行き、そう聞いた。


「……俺、真治の言葉を全部鵜呑みにしてた」


「うん。知ってる」


あたしはすぐに返事をする。


それでも教は言いにくそうに言葉を探している。


「有吉さんに何も聞かずに、本当に悪者だと思い込んでたんだ。ごめん」


教はそう言い、あたしに頭をさげた。


その様子がおかしくって笑いを我慢するのに必死だった。


今更になって真治の悪事を知り、教は相当傷ついているはずだ。


それなのに、まずはあたしに謝罪しなければいけないというその気持ちだけは、男らしさを感じた。
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