怨み赤子
食べ物は残しちゃいけない。


エスカレーターに乗る時は半分開けなきゃいけない。


それが常識だから。


ユキが今まであたしやカナミに言ってきた言葉だ。


食器は重ねてはいけない。


これも、ユキにとっての常識なのだろう。


そしてこの小さな小さな常識を勉が守らなかったから、友達の前で、しかもファミレスの中で怒りはじめたのだ。


そんなユキの態度に唖然としていると、ユキはスマホを取り出してゲームをやり始めた。


最近はまっているゲームらしく、やり出したらきりがいいところまでやるつもりだ。


それがわかっていたあたしは「先に出るね」と言って鞄を持った。


わざわざユキのゲームをここで待つ理由がない。


しかしユキは違った。


「待ってよ。まだゲームやってるんだから」


まるであたしが悪いかのように、そう言ったのだ。


勉が食器を重ねるだけで怒るのに、自分のゲームに人を待たせてもなんとも感じないようだ。


それでもユキは自分がしっかり者だと思っている。


その自信は一体どこから来るのか、もはや呆れてしまって考える事もできない。
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