怨み赤子
「いやぁ～昨日の夜いきなり弘江ちゃんから呼び出されて行ってみたら彼氏と喧嘩しててさぁ、仲裁に入ったら殴られた」


そう言ってまた笑うツバメ君。


弘江とはクラスメートの田島弘江（ﾀｼﾞﾏ　ﾋﾛｴ）の事だ。


そしてその彼氏は喧嘩っ早い事で知られている石倉大也（ｲｼｸﾗ　ﾀﾞｲﾔ）だ。


大也はツバサ君よりもずっと体格が良くて大きい。


喧嘩をしたらツバサ君に勝ち目がない事くらい、誰が見てもわかる。


「うわぁひどいね」


カナミは顔をしかめてそう言う。


「どうして2人の仲裁にツバサ君が呼ばれたの？」


そう聞くと、ツバサ君はなぜだか頬を緩めて「さぁ？　なんか俺弘江ちゃんには毎回呼ばれるんだよ」と、嬉しそうに言った。


「毎回って、喧嘩の度にってこと？」


カナミがそう聞くと、ツバサ君は大きく頷いた。


「そうなんだよ。頼りにしてくれてるのかなぁ？」


大也に殴られたと言いながらも、嫌な顔１つしかいツバサ君。


一見大きな優しさを持ているからかな？


と思うのだけれど、弘江と大也の喧嘩の事を平気で人に話してしまう部分は引っかかる。


ツバサ君の顔にあざができるほど殴ると言う事は、弘江も同じ目にあっているかもしれないと言う事だ。


そういう事は、本人は知られたくないと思っているかもしれないのに……。
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