怨み赤子
「でも、2人は付き合って1年経ってるよね? 確か今は弘江の両親が出張中だから2人は弘江のアパートで一緒に暮らしてるって聞いたけど……」


カナミがそう言うと、ツバサ君は大きく頷いた。


「そうだよ。そのアパートに俺が呼ばれるんだ」


自信満々にそう言うツバサ君にカナミとあたしは目を見交わせた。


「きっとさ、俺には話す事ができるから俺が呼ばれるんだと思うんだ」


ツバサ君が当然のようにそう言った。


知られたくない事かもしれないと理解していながら、こんな風に話をしているのだとわかると途端に距離を置きたくなる。


なんだか、変だ。


「信用されてるって言うの? 彼氏より、俺、みたいな?」


悠長に話を進めるツバサ君から、あたしとカナミはそっと離れた。


大也よりもツバサ君を信用しているのなら、弘江はとっくに別れて乗り換えているだろう。


だけどそうしないと言う事は、喧嘩をしても大也の事が好きだと言う事だ。


そして喧嘩の度に呼び出されるツバサは、弘江の代わりに殴られているだけ。


つまり、弘江にとってただ都合のいい人。


と言う事なのだ。


「ツバサ君、本気で言ってるのかな?」


2人でトイレに入り、カナミが引きつった笑顔でそう聞いて来た。


「たぶんね」


あたしも曖昧な笑顔を浮かべる。
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