怨み赤子
夜のアパート
夜になり、あたしはこっそり家を抜け出した。


そのまま真っ直ぐに弘江と大也のいるアパート進んでいく。


大也の暴力は数日置きに、決まって夜中に発生することが多いようだった。


ツバサ君の『弘江ちゃんを守ってあげたんだ』という自慢話を聞く日にちから考えて、今日あたりまた暴力は起こりそうだった。


今日は前回と違い、月の出ている夜だった。


肌寒さもなく、半そでで十分に過ごせる気温。


そんな中あたしはアパートの陰で立ちどまり、弘江の部屋を見上げていた。


大也の怒鳴り声は外にいても十分に聞こえて来る。


今日はすでに怒りはじめているらしく、『バカ女!』とか『殺してやる!』という物騒な言葉が聞こえて来た。


大也のどこがよくて付き合っているのか、あたしには理解できなかった。


大也のひどい暴言をぼんやりと聞いていると、駐輪場に自転車が止まった。


ツバサ君だ。


ツバサ君は自転車から降りてしばらくその場で立ちどまっていた。


大也の怒鳴り声を聞いているのかもしれない。


大也の苛立ちは声を聞くだけでも十分に理解できる範囲で、すぐに助けに行った方がいいとツバサ君もわかってるはずだった。
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