怨み赤子
「よぉ、よく寝てたなお前」


大也の声が聞こえた瞬間ツバサ君はビクッと体を震わせた。


「ほら、解放してやるよ」


大也はそう言うと、ツバサ君の手を拘束していた結束バンドをハサミで切った。


パチンッという音が聞こえてきてツバサ君の手は自由になるが、すぐに動くことはできなくてまるで赤ちゃんのように這って教室から逃げようとしている。


「ガムテープもとってやるから」


大也はツバサ君の前に立ちはだかってそう言うと、乱暴に口のガムテープを取った。


ツバサ君が痛み顔をゆがめる。


「安心しろよ、もうお前の事は殴らないから」


大也がツバサ君へ向けてそう言った。


ツバサ君はとまどったような表情を浮かべて、あたしへと視線を向けた。


あたしはジッとツバサ君を見たまま、何も言わなかった。


あたしはただの傍観者だ。


あえてこの教室に残った悪趣味なクラスメート。


ただそれだけの立場だから、ここでツバサ君に手を差し伸べたりはしない。
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