専務と心中!
薫の行動は素早かった。

独りで私の実家に行き、待ち合わせた大型ショッピングモールの立体駐車場に、両親を無事に連れ出して来てくれた。

薄暗いなかでも、両親の顔色の悪さがよくわかって……私は自分の親不孝を痛感した。

専務は、うちの両親の姿を見つけると、なんと、その場に土下座した!
さすがに慌てて止めた。

「てか、目立つし。車、乗って。」

薫の乗ってきた大きなエルグランドに、両親と専務と私、それから運転席に薫。
再び専務は、狭い足元に座って、手をついた。

「この度は、私の不徳で、お嬢さんにも、お父様、お母様にも、多大なご迷惑とご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。」

父は、ぽかーんとして、私を見た。

「にほ。このかたは……会社の専務さんだろ?横領を指示したという。……なんで、私達に謝ってらっしゃるんだ?」

う。
答えにくい。

しどろもどろになりながら、私は返事した。

「横領に専務は、関わってらっしゃいません。……でも、そのぉ、つきあってます。……てか、まだ、つきあいはじめたばかりなんだけど……こんなことになっちゃって……。」

母がギョッとしたらしい。

「ええっ!?不倫なのっ!?にほちゃん!不倫だけはダメって、女が損するだけだって、あれほど言ってきかせたのに……。」

「不倫じゃありません。前妻と離婚してから、お嬢さんに交際を申し込みました。」
専務は、顔を上げて、きっぱりと言った。

そこだけは強調したいらしい。

「離婚……。」
でも、昔人間の父は絶句してしまった。

「……お子さんもいらっしゃるんですよね?奥様と一緒に?」

母に聞かれて、専務は答えた。

「いえ。息子は家にいます。……彼が、私だけでなく、にほちゃんの身を心配してくれて……我が家で匿うよう提案してくれました。うちなら、家政婦さんもいますし、にほちゃんを矢面に立たせることなく、騒ぎが鎮静化するのを待てるので。どうか、このまま、お嬢さんを我が家にお連れすることをお許し下さい。」

専務の主張は身勝手と取られたようだ。

父は怒りを込め拳を握っていた。

「わ。おじさん。暴力反対。……気持ちはわかるけど、ぐっちー専務さん、これで、ちゃんと考えてんだよ。確かに、あの家なら安全だし。」

慌てて、運転席から薫が父を止めてくれた。

父は薫の手前、振り上げられ拳を渋々納める気になってくれたらしい。
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