専務と心中!
「普通は、こんな事態になったら、無理にでも仲を引き裂くべきなんだろうけどさ、ぐっちーは是が非でもにおを手放す気、ないらしいよ。むしろ、 ピンチに乗じて既成事実作っちまえ、ってノリ?」

薫の揶揄は、両親を呆れさせたらしい。

「既成事実って……まさか、既に妊娠?」

母のつぶやきに、父が青ざめた。

「ないない。それはない。絶対ない。あるわけない。……ねえ?」

私は慌ててそう言った。
専務は、ニコニコうなずいた。

「残念ながら、今はまだ。……大事なお嬢さんをいただくのですから、ちゃんと手順を踏みたいと思って、こうしてご挨拶させていただきました。本当は明日にでも入籍したいところですが、まずは結納からですね。近々、お邪魔いたします。」

早っ!
勝手にどんどん進めてく専務を、誰もが呆れて見た。

「入籍って……あんた、逮捕されるかもしれないのに……」

父がつぶやくように突っ込んだ。

でも専務はニコニコと、首を横に振った。

「逮捕なんかされませんよ。悪いことはしてません。警察もそこはわかってくれてます。……ただ、直属の部下の横領なので、会社は引責辞任します。これまで馬車馬のように働いてきたので、しばらくは休暇のつもりで、論文を書く予定です。」

……専務……どこまでも……楽観的だわ。

でも、会社をクビになっても、変な方向に前向きで、頼もしさすら感じた。

和む私と母とは対照的に、父は不機嫌になった。

「ではあなたは、無職になるのか。結婚式や披露宴はしないのか?その歳で、会社を追われて無職になるんやろ?……恥ずかしくないのか?」

……感性の違いだろなあ。
でも、そうよね。
普通に披露宴をすれば新郎紹介は必ずあるはず。
そこで、新郎は現在無職で……なんて、確かに聞いたことないわ。

私は、至極まっとうな父に少し同情した。
でも、もはや私も専務の変な極楽トンボぶりに慣らされてるようだ。

「無職はダメですか?そうですか……では、デイトレーダーか、投資家でもダメでしょうね?うーん、そうだな。あ。では、大学の講師でどうですか?以前から誘われてたので、何とかなるんじゃないかな。」

専務は、あくまで飄々としていた。

運転席で薫が笑っていた。

私も、笑えてきてしまった。

母が、続いて父も苦笑い。

……何となく、私達の仲は、両親に許してもらえた……というよりは、諦められたようだ。
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