専務と心中!
「あーゆー攻略法もあるんだ。びっくりしたわ。ぐっちー、すげぇ。」

専務の勧めで、両親は京都の料理旅館に滞在することになった。
両親を旅館でおろした後、再び薫と少し話した。
薫は事の成り行きと展開を完全におもしろがっていた。

「ねえ。完全に、呆れられてたで。まあ、専務らしいけど。」
「こらこら。2人とも。誉める時は、もっとわかりやすく誉めてくれたらいいんだぞ。」

専務は偉そうにふんぞり返ってそう言った。

いやいやいや。
誉めてないし。

確かに、煙に巻いて専務の思惑通りに進めてるのは認めるけど。
まったく、ほめてないから。



専務のご自宅に到着したのは、深夜。

「さあ。いっぱいいるよー。マスコミ。カーテン閉めた?座席の下に潜って。顔、上げるなよ。ぐっちー、電話して。」
「ああ。……もしもし?お花さんかい?私だ。門を開けてくれるか?」

車の外でフラッシュがたかれる。
まるで昼間のように明るい。
そして、物々しい。

騒然としている中、薫は強気にアクセルを踏みこんだ。
すぐに、門が閉まる。

「まだダメ。……すごいな。高梯子だけじゃなく、電柱や隣の家の塀からカメラ構えてる奴もいるわ。プロだなあ。」

感心しつつ、薫は車庫へと車で突っ込んだ。
さすがに地下の車庫は、誰の目にも届かない。

「若さん!」

年輩の優しそうなおばあさんが飛んできた。

「やあ、お花さん。ただいま。やっと帰れたよ。彼女が、にほちゃん。前に一度顔を合わせてるが、覚えてるか?まあ、仲良くしてやってくれ。頼むよ。」

専務のニコニコ顔に、お花さんは涙を浮かべた。

「まあまあ。すっかりおやつれにならはって。……にほさん?あなたも。やせすぎですよ。しっかり食べてはりますか?……あら、こんばんは。水島さんも、今夜は泊まって行かれますでしょう?」

そうか。
薫は、前に専務の車を届けに来てるから、お花さんとも顔見知りなのか。

「いや。俺は帰ります。明日はいつも通り練習したいんで。」

そう言って薫はすぐに帰ろうとしたけれど、お花さんは手強かった。

「せっかく美味しいお料理作りましたのに。せめて召し上がってから帰らはったらどうですか。」
上品そうなおばあさんなんだけど、押しは強いらしい。

「うーん。……じゃあ、お言葉に甘えて。」

遠慮して見せたものの、薫は引き留められて喜んでいた。
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