専務と心中!
「なに?まさか、前に来たときも、ご馳走になって帰ったの?味、しめた?」

小声でそう聞いたら、薫は満面の笑顔でうなずいた。

「めちゃめちゃうまかった!料理はもちろんだけど、お茶まで上手いんだぜ。……にお、いいなー。ここに泊めてもらえるの、めちゃラッキーだぜ。うらやましい。」

すると先行して歩いてた専務が、笑顔で振り向いた。

「それはどうも。誉めてくれて、ありがとう。気に入ったなら水島くんも、いつでも、いくらでも滞在してくれていいぞ。息子も喜ぶだろう。」

そして、私達2人に向けて釘を刺すかのように、続けた。

「……でも、にほちゃんは、ここに泊まるんじゃなくて、ここに住むって認識に改めてくれ。もう、帰すつもりないから。よろしく。」

はあっ!?

「監禁でもする気?」

呆れてそう聞いたら、専務はウィンクした。

「手厚く保護するだけだよ。ご両親にも話は通したし。」

えー……軽く言ってるけど、これ、マジよね、専務。

「なるほど。本格的に捕まってしまったみたいだな、にお。篭の鳥だな。」

薫が笑ってそう揶揄した。

「青髭の花嫁かもしれませんよ。」

聞き覚えのある声が天から降ってきた。
見上げると、二階から聡(さとる)くんが降りてきた。

「ただいま。聡。……社長は、もう休んだか?」

そう言えばこの家には社長もいたんだった。
すっかり忘れてたよ。

「おかえりなさい。おじいさんなら、とっくに。……にほさん?この度は、父がご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありませんでした。祖父は明日の朝、改めてご挨拶させていただきます。……水島さん、こんばんは。ご活躍、拝見してます。」

聡くんの挨拶に、薫も私も、半笑いでしか返せなかった。
社会人の私達より、はるかにしっかりしてるよー、聡くん。

てか、聡くん……専務と私のことを、どう認識してるのだろう。
不倫だと思われてたら、嫌だな。

いや、それどころか、私の存在がお母さんを追い出した、とか思われてたら……どうしよう……。

お花さんが、聡くんを手招きした。

「ぼっちゃんも。お夜食、ご一緒にどうぞ。そのつもりで、お夕食、あまりお召し上がりにならへんかったんでしょう?」

聡くんの頬が少し赤くなった。
「そんなんじゃないよ。あまり食欲がなかっただけ。」

「へえ。そうでしたか。……でもそしたら、今は、お腹すいてきはりましたでしょう。さあ、どうぞどうぞ。」

お花さんに呼ばれて、渋々といった体で聡くんもやってきた。
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