専務と心中!
日付が変わってからの晩餐会は、今の状況が嘘のように和やかだった。

「聡、それで、自由研究は終わったのか。」

いっぱしの父親ぶって、専務が聡くんにそう聞いた。

あと数日後に高校の入学式を迎える聡くんだけど、中高一貫教育の学園なので、内部進学者にはいくつかの課題が与えられたらしい。
聡くんは、家のルーツと家業の歴史をまとめようと、美術館の峠さんに教わっていたそうだ。

……そういえばせっかく本社にも来てたのに……こんなことになっちゃって……私、何もしてあげてなかったわ。
ちゃんと力になってあげたいのに……もう、できないのかな。

「はい。ある程度は。でも調べていくうちに、黒歴史がおもしろくなってきました。さすがに公表できませんが。」

聡くん、専務に敬語なの?
お花さんには、普通の言葉使いだったのに。

違和感を覚えつつ、黒歴史という言葉に私は飛びついた。

「黒歴史って、どんなの?……前に、用心棒と女中が駆け落ちしたって記述見たことあるんだけど、そんな感じ?」

「……にお……何か自虐的……。」
薫が小声でつぶやいた。

どういう意味よ?
私が女中って言いたいの?

ジロリと薫を睨む横で、専務が飄々と言った。

「黒かろうが白かろうが、それが事実なら隠す必要はない。好きにやりなさい。」
「はい。ありがとうございます。……お父さんも?黒でも白でも、逃げ隠れしないお覚悟ですか?」

聡くんは、真剣な目でそう聞いた。

……たぶん、今回の騒動をどうするつもりなのか……専務から直接聞きたくて、夜遅くまで待っていたんじやないかな。

そのために、関係ない私達まで受け入れて……。

胸が……疼いた。

薫が生唾を飲み込んだ音まで響くほどの静寂のあと、専務はキッパリ言った。

「当たり前だ。何のために帰宅したと思ってるんだ。俺が、たかだか6千万を、会社から横領なんかするわけないだろう。めんどくさい。俺は無実だ。信じていい。でも、部下の横領を止められなかった責
任は取る。」

聡くんは、息をついた。

「そうですか。もう決められたんですね。……優柔不断なお父さんにしては、即断即決だったんですね。」

優柔不断、なの?

専務は胸を張って見せた。

「長引くと、いつまでも、にほちゃんにつらい想いをさせてしまうからな。明日には辞任する。株主にも通達した。明日は、市場にまだ残ってる我が社の株価が大暴落するぞ。」
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