専務と心中!
えーとー……。

私のことはさておいて、専務の辞任って会社の経営にそんなに影響するのかしら。
昼行灯とまで揶揄されてるヒトなのに?

社内での、専務に対する冷ややかな空気……バカボン、バカ殿、ぼんぼん……なーんて陰口たたかれてるヒトなんだけどなあ。

いろいろ気にはなったけど、私の立場では何も言えなかった。
いやいや。
私は、信じてるよ。
専務は愚鈍じゃない。
……薫も、ホームレスのおじさんも、そう言ってたもん。
うん。

「わかりました。僕の入学式には2人で堂々と参列してください。」

そう言って、聡くんは席を立った。
笑顔で、おやすみなさいの挨拶を残して。

「何てゆーか……イイ子ですね、本当に。」
むしろ拍子抜けしてしまった。

「余計な苦労してきたぶん、冷めてるんだ。かわいそうに。」

おそらく苦労の原因の1人であろう専務が、天を仰いでそう嘆いた。

「苦労、ですか?何不自由なく育ってはりそうですけど。」

同じく、何不自由なく育った薫が不思議そうに聞き返した。

「まあ、経済的には恵まれてるがな、……あれの母親は……日本の常識が通用しないヒトだったからな。一緒にいて一番割を喰ったのは、聡だ。かわいそうな想いをさせてしまった。」

珍しくしんみりした専務の言葉に、お花さんも涙ぐんでらした。
よくわからないけれど、ちょっと引っ掛かった。

「その言い方やと、元奥様に全責任なすりつけてはりません?なんか、ずるい。」

ちょっと睨んでそう言ったら、専務はしゅんとしてしまった。

お花さんは、涙をエプロンで拭って言った。

「ほんまに。あんなおひとさんでも、ぼっちゃんのお母様ですからね。ぼっちゃんの前では、絶対、悪口言うたらあきませんよ、若さん。……にほさん、悪口は、また2人だけの時にいたしましょうね。ガールズトーク、っちゅうんですか?」

……え……お花さんと、ガールズトーク?

しかも話題は、前妻の悪口?
なんか、性格ねじくれそうで、勘弁してほしいかも。

バック踏むわ……。

「……それって、井戸端会議じゃない?」

薫の突っ込みを華麗にスルーして、お花さんは女王のように宣言した。

「はいはい。The party is over. おやすみなさいませ。」

お花さん、英語の発音、上手~。
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