専務と心中!
位置は決めず
翌朝まだ暗いうちに、薫は奈良へ帰って行った。

「じゃあな。にお。花嫁修業のつもりでしっかりやれよ。」
まるで私の保護者のように、そう言い残して。

そんな風にいわれると……身構えちゃうじゃないか。

結局、あてがわれたゲストルームに戻らず、既に起きて朝食準備を始めているお花さんを手伝いに行った。
「おはようございます。あの、お手伝いさせていただけますか?」

すると、お花さんは笑顔でキッパリ断った。
「ありがとうございます。でも、これは私の仕事ですから、けっこうですよ。」

……とりつく島もなし。

「お邪魔しました~。」

すごすごと退散しようとしたら、お花さんの声が追ってきた。

「にほさん。もし、よろしければ、若さんを起こしてさしあげてくださいませんか?大事な日ぃですから、早起きして、シャキッとしていただかないと。」

それは……朝っぱらから、専務に喰われて来い、ということだろうか。

夕べも、お花さんに、しきりに専務の部屋へ行くよう水を向けられたけど、気づかないふりをしてスルーした。
さすがに、これ以上は不自然だろうか。

「……はい。社長と聡(さとる)くんにも、お声掛けいたしましょうか?」
それでも小さな抵抗を示したけれど、
「その必要はありませんわ。お二人とも時間に正確でいらっしゃいますから。ルーズなのは、若さんだけです。」
と、あっさり蹴られた。

というわけで、専務の寝室のドアをノックしたけど、何の反応もない。
まだ6時前だもんなあ。
たぶん寝たのは2時頃だろうし。
寝てて当たり前だわ。

そーっとドアを開けると、専務の寝息が聞こえてきた。

室内灯をつけても、間接照明だからあまり眩しくない。
これじゃなかなか起きないねえ。

でも、まだ、起こす必要もないか。
もう少し寝てていいよー。

私はベッドのすぐ横のソファに座って、専務の寝顔を見ていた。

幸せそう。
何の夢を見てるんだろう。

「……にほ……」

不意にそう呼ばれてびっくりした。
寝言で私を呼んだ!?

慌てて覗き込むと、専務の目が開いた。

「いた。にほちゃんだ。やっぱり。おいで。」

なにが「やっぱり」なのかもよくわかんないけれど、広げた専務の腕に、私は吸い寄せられるように身をゆだねた。

ふーっと、勝手に吐息が出た。

身体は、正直だ。
私を一番解放してくれるヒトを見つけてしまったみたい。

……幸せって、こーゆーことなのかな。
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