専務と心中!
「……うん。まあ。あ、でもヤキモチとかじゃなくて……聡くんと逢いたいだろうなー、とか。このおうちでどんな風に過ごされてたのかなー、とか。」

そう答えると、聡くんは伏し目がちに淡々と言った。

「退屈そうでしたよ。刺激とスリルが好きなヒトなので。カードでガンガン高価な買い物をしながら、欲しくもない安モノを万引きするヒトですから。しかも、バレたら僕やお花さんに罪をなすりつけて、自分は平然としてました。酒も男もギャンブルも度が過ぎて、実子の僕も庇えません。」

……それはまた……すごいな。
想像以上だわ。

「バイタリティあふれる女傑なのね。ご自分でお商売とかされたら大成功しはりそう。」

私の無理矢理なほめ言葉に、聡くんは苦笑した。

「イイヒトですね、にほさん。父が惚れ込むわけだ。……でも、いいですよ。無理しなくても。ルールを何一つ守れない母が、社会で成功できるわけありません。身ぐるみ剥がれるのがオチです。」

……あかん……擁護できひん……。
言葉じゃなくて、ため息がでてしまった。

「そっか。……じゃあ、離れてたら、ますます心配やね。せめて聡くんだけでも、お母さんとこまめに連絡とってあげてね。」

……椎木尾さんのように、手遅れになる前に。

心に重くのしかかる闇。
椎木尾さんが逮捕されるのもつらいけど、遺体が上がることは、もっと受け入れられない。

真実なんて、ほじくり出さないでいい。
そうすれば、椎木尾さんはどこかで生きてるって……思っていられるから。

生きていてほしい……。



「……夏休みに、シンガポールに行くつもりです。」

聡くんはそう言って、私に笑顔を見せてくれた。

「ありがとう。父をよろしくお願いします。苦労知らずのぼんぼんだから大変でしょうけど。仲良くしてやってください。」

「あ、うん。てか、私こそ、よろしく。……あのね、すぐには無理やろうけど、敬語じゃなくていいよ?仲良くなろ?」

私の言葉に、聡くんの頬が少し染まった。

照れてる照れてる。
思春期の男子だもんね。

シンガポールという混血種のマダムと日本人の専務のハーフにあたる聡くんは、どこかエキゾチックな顔立ちだった。
めっちゃイケメンではないけど、整った目を引くお顔。

そっか。
私とちょうど10歳差なんだ。

えーと、専務と私が17歳差だから……聡くんのほうが歳、近いんだ。
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