専務と心中!
でも、統さんはまったく凹むこともなく言った。
「部外者じゃないぞ。大株主さまだ。会社の運営からは手を引いたが、株は混乱に乗じて爆買いした。……おかげで、貯金は底をついたが、まあ、よかろう。」

へ?

「ホントに株価、暴落したんですか?それを、買ったの?専務が?」
思わず、癖で専務と呼んでしまうほどびっくりした。

「ああ。何年も前から、上場を辞めようと思って金を作ってたんだ。……意外と、俺には社内に敵が多くてな。社長の目の黒いうちに、株を掌握したかったんだ。今回の事件は、椎木尾くんのことは悼ましいけどな、まあ、好機だったよ。会社もにほちゃんも、予定より早く手に入れた。」

そう言って、統さんは私を抱き寄せた。

こらこら!

「思春期男子の前で、ダメだってば!」
統さんの手から逃れようともがく。

「いーんだよ。明後日には夫婦になるんだから。あー、聡。にほちゃん、かわいいけど、懸想はするなよ?」

飄々と息子に釘を刺す統さんに、お花さんも、当の聡くんも呆れて半笑いだった。

……もう!


翌朝、美術館に出勤すると、既にイイ香りがしてた。

「ほう?ダシからとってるのか。本格的だな。」
抱えきれない荷物を一緒に運んでくれる……という名目でついて来た統さんが鼻をくんくんさせてた。

「おはようございます。峠先生。すっごくイイ香り。何作ってらっしゃるんですか?」

キッチンを覗くと、峠さんがシャツの袖をまくったエプロン姿で包丁を握ってらした。

「おはようございます。まだメインは決めてません。あとで買い出しに行きます。……すごい荷物ですね。……あれ?聡くん……じゃない?専務ですか?」

顔が見えないぐらい荷物を積み上げて運んできた統さんに、峠さんが気づいた。

「ああ。おはよう。いい匂いだな。私も相伴させてくれないか?聡はもう少ししてから来る。」

峠さんは笑顔でうなずいた。
「いいですよ。でも、布居さんの仕事の邪魔はしないでくださいね。それから……そうだなぁ、ビジターは倍の金額に設定しようかな。800円。あ、聡くんは学生だから職員と同じで。」

なんか、峠さん、めっちゃ楽しそう。

「へえ?食器だけじゃなくて、鍋や缶詰も持ってきてくれたんですね。パートさん達もお野菜やお米を提供してくれて。楽しいなー。何作ろうかなー。」

峠さんは、明らかに浮かれていた。
まるっきりいつもと違う。
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