専務と心中!
サイクリング、か。
正直、心配。
トラック競技も危ないけど、ロードは車道を走るから……交通事故に遭わないか……。

不安そうな私に聡くんがほほえんだ。

「大丈夫だよ。におさん。でも心配してくれるの、うれしい。……におさんを悲しませないように、気をつけて走るから。」

……イイ子。
ほんと、イイ子だわ、聡くん。


学校の門のところで写真撮影してると、嫌な感じの視線を感じた。
私はまだ知らなかった。
その日発売の週刊誌に、専務と私が不倫の恋を実らせたことに傷ついた椎木尾さんが自殺した、という論調の記事が掲載されていたことを。

聡くんの入学式に参列していても、何となく居心地が悪かった。
お式の後、ようやく週刊誌のことを知った。

馬鹿馬鹿しい、と専務は一笑に付した。
でも私は笑えなかった。
……いや、記事はちゃんちゃらおかしい。
でも、椎木尾さんの死を忘れがちな自分を、冷たい人間だと改めて思ってしまった。

私はお葬式にも行かなかった。
非難されても仕方ないのかもしれない。

せっかくの入籍した記念日なのに、私はすっかり落ち込んでしまった。

「ほら、にほちゃん。笑って。気にする必要ないって。弁護士がすぐに出版社を訴えてくれるから。まあどうせ、2行ほどの小さい訂正記事が載るだけだろうけど。」

統さんは、謂われのない中傷には慣れっこらしく、一生懸命私を励ましてくれた。

「うん。……でも、私、椎木尾さんが死んだ実感がなくって……無神経やったから……。」

反省すべき点がないわけじゃない。

「もう!そんなんじゃ、精神的に参ってしまうぞ。」



統さんの懸念した通り、私はその日からため息ばかりつくようになってしまった。

食事も喉を通らない……はずなんだけど、そこは、ほら……お花さんも、峠さんも、そこらの店よりはるかに美味しいお料理を出してくれるから、しっかり食べた。
おかげで、やつれることはなかった。


ゴールデンウイークに入る前、峠さんが首を傾げながら言った。
「もしかして、布居さん……おめでたですか?」

びっくりした。
そんなこと、思いも寄らなかった。

いや、確かに、生理来てないし、やることはやってるけど……え?マジで?

「……気づきませんでした。でも、どうして?」

驚いてそう聞いたら、峠さんは苦笑した。
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