専務と心中!
躊躇のない突然のダッシュ。

もともと優れたスプリンターの薫は、後手を踏んだ後続ラインをぶっちぎっての赤板(残り周回2周)前の第4コーナーからの先行となった。

大丈夫。
330m(さんさん)バンクだもん。
後続ラインは届かない。

……でも、泉さんには差されるな。

あーあ。
一番人気で決まり、か。

「よーし!行け!行け!届けっ!差せっ!」

え!?
中沢さん、さっき邪魔してた南関ラインを応援してる!?

ぽかーんとしてるうちに、ゴール。

直前で、泉さんが薫を差して1着、頭を完全に落として肩で息をしている薫が2着、そして3着は南関ラインの自在屋さんの後ろに付いてた若い子。

「よしっ!三連単、そこそこの配当きたっ!」

中沢さんはそう言ってから、私の手を取って、ぶんぶんと上下に振った。

「布居さん、ナイスアシスト!ありがとう!」

……なんか……私、八百長に加担した気分なんですけど。



選手たちが惰性で一周まわってくる。

薫に「お疲れ様」の声をかけようとした……ら、専務がボソッと言った。

「水島くん、か。なるほど。……手強いライバルだな。」


どういう意味だろう。

ものすごく気になったけど、私は無視した。

考えたくなかった。


……今は。
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