専務と心中！

番手捲り

「専務。これ、ありがとうございました。」

払戻金の中から５万円を差し出すと、専務は慌てて手を振った。

「いらないいらない。……それで、明日は遊ぶといいよ。土日も来るんだろう？」
「はあ。来ます。けど……。」


最終レースは、専務のお誕生日車券じゃなかった。
私は安い安い本命の二車単を、専務にいただいた５万円から３万円買っていた。

……普段、百円しか買わないから本命決着なんてつまんないと思ってたけど……大金を賭けているヒトには充分なのね。

「いいじゃん。ぐっちーは、帯２本だよ。布居さん、おねだりしたら、１本もらえるんじゃない？」
二車単も三連単もけっこうな金額を買っていたらしく、にこにこ顔の中沢さんが、しれっとそんなことを言った。

ちなみに、「帯」は百万円をさすらしい。

専務は大口専用の払戻窓口で、帯封をした百万円の束を２つ受け取ると、本当に私に差し出した。
「ちょ！ほんまにやめてください！なんか！お金で買われるみたいで嫌なんですけど！」

慌ててそう拒否すると、専務はニッコリ笑った。

「うん。にほちゃんなら、そう言うと思ってたよ。受け取っても、どこかに寄付するか、誰かにあげちゃいそうだしね……また。」

「また？」
私が聞き返す前に、中沢さんがそう聞いた。

専務は中沢さんに向かって言った。
「そうなんだ。前に、にほちゃんがホームレスのおじさんにね、ずいぶんと素敵な気遣いをしてあげてるのを見かけたことがあってね。」

ギョッとした。

……あれ、見られてたのか。
でも周囲に誰もいないか確認したのに……。

専務は私の反応を見ながら、ニコニコと説明を重ねた。

「会社の周辺で寝泊まりしてるおじさんでね、よく自動販売機の下にお金が落ちてないか、お釣りが残ってないか……マメにチェックしてらっしゃるんだけどね、見て見ぬふりするか、もしくはあからさまに蔑んだり、邪険に扱うヒトが多い中、にほちゃんは、わざわざ千円札で小さな水を買ったんだよね？『おっちゃん、お釣り、取り忘れてはりますよ？』って、おじさんのプライドを傷つけない言い方で、お金をくれた……って、おじさん、喜んでたよ。」