専務と心中!
……だって、あのおじさん……たぶん競輪好きだから……何となく親近感と言うか……気になってたんだもん。

前に、私を迎えに来てた薫を見て、「水島薫……?」ってフルネームでつぶやいてた。
あの頃まだA級選手だった薫を知ってるなんて、絶対にディープな競輪ファンしか有り得ない。

「よく言い過ぎです。本当は、ちょっと後味悪くて。あのあと、おじさんが私に挨拶してくださるようになっちゃって……他人目(ひとめ)を気にして逃げるように、会釈しかできなくて……却って申し訳なかったかなって……。」

言ってて、自分の小ささが嫌になる。
一時的な厚意を示すだけで、アフターが最悪だ。
後悔するなら、最初からやらなきゃよかった。

うつむいた私に、専務はふふっと笑った。

「そんなことないよ。おじさん、喜んでたよ。あのあと、会社の周囲の掃除とか自主的にしてくれるようになってね。にほちゃんの笑顔を見るとホッとする、今日はイライラしてる、疲れてる、しんどそう……って、毎日、気にかけてたよ。」

……えーとー……。

「てか、専務、詳しすぎません?」
「うん。……俺、あのおじさんには世話になってるから。恩人?」

大会社の跡取りが、ホームレスから、何の恩を受けてるんだ?
意味わかんない。

ぽかーんとしてると、中沢さんが急かした。

「ほら、行くよ。予約取ったから。布居さんは……ぐっちーの車でいいね?」

「……はあ。」
いや、どっちの車もいいとは言い難いんだけどさ……。

「じゃ、行こうか。」
専務は、ニコニコして、私の背中にそっと手を宛てがった。



駐車場には、もうほとんど車が残ってなかった。

中沢さんの車は紺色のレガシィ、専務の車は……あれ?
……黒いホンダのS2000?
こんな走り屋の車に乗ってはるの?
めちゃ意外なんですけど。

「2ドア2シートですね。」
一応、ご家族は、社長、専務、専務の奥さま、息子さんの4人のはずなのに、2人乗りの車。

「うん。プライベートは専らコレなんだよ。……乗って。」
……プライベートって……ご家族でお出かけとかないの?

そもそもこれって、とっくに廃盤のはず。
なんか、こだわりがあって乗り続けてはるのかな。
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