専務と心中!
交わしの交わし
専務からの着信はスルーして、碧生くんと2人でおうどん屋さんにランチに来た。
D(ドクター)1の学生くんは、お母さんお手製のお弁当派らしく、社史編纂室で南部室長とお昼を過ごすことが多い。
必然的に、これからも碧生くんと私は一緒にご飯を食べることになりそうだ。
まあ、共通の話題には事欠かないのだが……。

「もしかして、俺の顔を見にきたのかな。」
専務の来訪を聞いて、碧生(あおい)くんは首を傾げてそう独りごちた。

「え?……知り合い?専務とも?」
思わず「も」をつけてしまった。
言葉のあやということにしておこう。

でも、碧生くん、薫とも椎木尾(しぎお)さんとも仲良しみたいだし……これで専務までって……今、このタイミングで出会ったことに怖いほどの必然を感じてしまう。

「いや、俺がまだ小さい頃に家によく来てたってだけ。……統(すばる)が、L.A.に留学してた頃、祖父が地元日本人会の会長をしてたから。イロイロお節介に世話焼いたみたい。」
碧生くんは事もなげにそう言った。

ちょっと待って!
統、って……呼び捨てはまずいよね?
外国ならともかく、ここは日本。
しかも、会社の専務と学生バイト。

やんわり注意すべきなんだけど、日本人会会長!?
ロサンゼルスの?

……碧生くんって……セレブ!?


「……とりあえず、会社では『専務』とお呼びしてね。」
やっとそう言ったら、碧生くんは素直にうなずいた。
「O.K.……でも、今はむしろファーストネームのほうがよくない?『専務』じゃ仰々しくて、却って周囲に気にされるよ?」

碧生くんの言う通りだ。
会社にほど近い狭い店内で、専務専務と連呼するのは、確かに憚られた。
中沢さんのように「ぐっちー」と呼ぶのが一番穏便かもしれないなあと思いつつ、私はうなずいた。

「統も、Grace(グレイス)も、離婚してないみたいだね。よかったよ。祖父が心配してたから、さ。」
続く碧生くんの言葉に、ドキッとした。

グレース?
専務が「マダム」と呼んでいた奥さまのこと?

……離婚……するっぽいけど……な~んて、私の立場で言うのも変だしなあ。

「おじいさまは、専務だけじゃなく、奥様のこともよくご存じなの?……奥様は、シンガポールのかただとおうかがいしてるけど。」

逆にそう聞いてみることにした。
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