専務と心中!
すると碧生くんは、首を傾げた。

「どうかな。まあ、シンガポール華僑かもしれないけど、少なくとも、L.A.には留学じゃなくて一家で流浪してきてたって。良家のぼんぼんには相応しくない相手だと日本のご家族が心配されて、祖父だけでなく当時の領事も気を揉んだらしいよ。……大恋愛がちゃんと成就して、ほんと、よかったよね。」

よかった、のだろうか。

私は曖昧な表情でうなずくとも、首を傾げるとも言えない微妙なリアクションしかできなかった。
碧生くんは、それ以上何も言わなかった。

……何か、察知された……かな。


午後から、私も資料撮影に参加した。
複写台というやたら重たいスタンドにカメラをセッティングして、帳面や証文、書状をひたすら撮影してゆく。
アルバイトの2人は手慣れたもので、1日に3千枚もの画像を撮影してくれている。
……コピーとるより早いかも?

「あ!布居さん!指輪と時計は一応とってください!」
D1のバイトくんにそう指示されて、私は慌てて手から金属をはずす。

「……マニキュアはいいの?」
恐る恐るそう尋ねると、碧生くんがウィンクした!

「まあ、対外的にはやめといたほうがいいかな。こういう業界はうるさいから。」

そうか。
帰国子女、いや、日系三世だもんな。
専務でもウィンクとかしちゃってたんだもん、碧生くんに至っては当たり前のゼスチャーなのかも。

……とりあえず、マニキュアは控えることにしよう、うん。


順調に撮影のお手伝いをしてると、碧生くんが質問してきた。
「この社史編纂事業が終わるまで、布居さんが担当するの?……寿退社するまで?」

答えにくいこと聞くなぁ。

実際のところ、どうして門外漢の私がココにいるのかなんて人事課長ぐらいしかわかんないんじゃないんだろか。
……いや、人事課長も怪しいかも。
よくわからないけれど、専務が私をココに入れたのだとすれば……その意図はご本人のみぞ知る、だわ。

「さあ。わからへんわ。でも寿退社の予定はないから。社史が終わるまで頑張らんとあかんやろね~。」
苦笑しながらそう言った。

でも、2人は顔を見合わせて首を傾げた。
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