専務と心中!
おもしろい!
てか、びっくりした!
そんなの、聞いたことない!

「え?じゃあ、これ?欠落(けつらく)じゃなくて、もしかして、かけおち、って読むの?……なぞなぞみたい。」

D1学生くんが、うなずいた。
「まあ、どこまで社史に書けるかは、執筆委員の先生方とこちらの会社の役員で相談すべきでしょうけどね。……この数日、俺らがチラ見してるだけでも、けっこうな黒歴史満載ですから。おもしろいですよ。」

2人の話を聞きながら、私は再び帳面に目を落とした。
……ところどころ、読めそうな文字も確かにある。

勉強、してみようかな?


終業のチャイムが鳴った。
学生くん達に出された宿題の古文書の画像を眺めながらロッカーへ向かう。
と、ポケットの携帯が震えた。

また専務かな。

少し周囲を伺いつつ、携帯の画面を確認した。

専務だ。

ため息をついて電話に出た。
「……はい?」

『あー。におちゃん?俺だけど。……どうして連絡くれないのかな?』

どっと脱力した。

「……どうしても何も、会社ですから。仕事してますから。……お昼も1人じゃありませんでしたし。」

何が悲しくて、自分の会社の役員に仕事の邪魔されなきゃいけないんだ。

『そっか。そうだね。うん。……どうかな?ちょっと聞きたいことがあるんだけど、食事でも……。』

聞きたいこと、ね。
でも、ちょうどいいかも。
私も聞きたい。
どうして、私を社史編纂室に入れたのか。


待ち合わせは、会社の近くの公園。
この公園は駅とは反対方向なので、ヒトの流れに逆らって向かった。

まだ来てないのかな。

小さなベンチに座って待ってると、ガサガサと背後で音がした。

何?

振り返ると、少し離れた茂みの中のブルーシートをめくって専務が現れた。

「やあ。にほちゃん。来てくれたんだね。ありがと。ありがと。」

びっくりした。

「え……えーと……専務?そこは……」
「ん?おじさんにイロイロ教えてもらってたんだよ。おじさんおじさん。にほちゃんだよ?」

専務はブルーシートとダンボールで囲んだ小さな空間に再び頭を突っ込んだ。

……ホームレスのおじさんの……お住まい?

大会社の専務が、何やってんだろう。
やっぱり変なヒトやわ。

「ダメだ。おじさん、恥ずかしがって顔出せないみたい。ま、また来ますね。ありがとうございました。」

専務はニコニコとおじさんに手を振って、最後にきちんと頭を下げて、ブルーシートを下ろした。
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