専務と心中!
16時頃、南部室長が戻ってきた。

「布居さん。天花寺(てんげいじ)くんを連れて専務室へ行ってくれ。今すぐだそうだ。」
「今、すぐ?ですか?」

あと1時間ちょっとで終業なのに、わざわざ、今?

「ああ。移転先の内装の相談らしい。ずいぶんとお急ぎのようだ。」

室長に急かされて、私は碧生くんと本社棟を目指した。

「絶対仕事の話じゃないよね……。」
「……俺も、違うと思います。遊びの誘いかなあ。」

役員専用フロアへ上がるエレベーターの中、碧生くんと苦笑し合った。


「やあ。よく来たね。かけて。……コーヒーでいいか?」

専務は超ご機嫌さんで、私たちを迎えた。

「いえ。けっこうです。私たち、お客様というわけでもありませんのに、秘書課の手を煩わせるのは、ちょっと。」
そう断ったら、専務は首を傾げて苦笑した。

「にほちゃんは、真面目だねえ。」
「社内で、そんな風に呼ばないでください!」

恥ずかしいから!

……てか、当たり前のことでしょう!?

「……今朝、ごいっちゃんがメロドラマ演じちゃったから、布居さん、気まずいんだよ。なのに、統(すばる)まで、離婚発表するし、仕事中に呼び出すし、公私混同だしさー、察してあげなよ。」

妙にくつろいで、碧生くんが専務をたしなめた。
てか、碧生くん、また、専務をファーストネームで呼び捨てだし。

「ふーん?メロドラマ?そうかそうか。別れたんだな。それは、よかった。」
専務はいつも以上に盛大にニコニコ顔になった。

げんなりする。
私、本当にこのヒトと、これからつきあうんだろうか。
社内恋愛、始めるんだろうか。
不安だ……。

てか、不安しかない。
この浮かれた極楽とんぼに、振り回されるのが目に見えてる。


「で?資料室の相談なんだよね?とりあえず、仕事の話、しよう。」
碧生くんがそう言ってくれた。
でも、専務は変な顔になった。

……おいおいおい。
マジで、遊びに来させただけなのか?

私たち2人から目を逸らし、専務はパソコンのモニターをくるっと回して見せた。
「仕事は……まあ、また今度にしてだな、一緒に水島くんを応援しないか。」

……。

「業務時間中に、競輪ですか?……マジ、最悪。」
思わず顔をしかめてそう吐き捨てた。

専務の顔がさっと翳り、傷ついた目で私を見つめる。

あー、もう!
そんな目で見ないでよー!
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