専務と心中!
「交わしの交わし?」

首を傾げた専務が、釣られて私に視線を移して、それからにへらっと笑った。

……この場合……薫や椎木尾(しぎお)さんを出し抜いて、専務が私を自分のものする、という意味なのだろうか。

何となく気恥ずかしくて、素直に同調できない。
まあ、その通りなんだけど。


再び私にすり寄ろうとする専務を、敢えてひらりと交わして、私はモニターに近づいた。

「安っ!800円しかつかへんの?」

二車単800円、三連単は3千円ほどの配当だ。

「だから、ガミるって言ったんですよ。まあでも、布居さん、200円買わはったから、600円、あとで渡しますね。……裏返ったら、二車単4千円だったんですけど……水島の優勝のほうがうれしいから、いいですよね?」

「ガミる?」
言葉の意味がわからないらしい専務は無視して、碧生くんと私は満足げに頷き合った。

「碧生くんも?裏目も持ってたの?」
何となくそう聞いてみた。

「いえ。今回は頭だけ。何となく中沢さんの真似して、水島と心中車券しか買わないことが多いかな。まあ、状況によりますけど、やっぱり決勝戦は水島を応援してやりたいし。額はけっこう突っ込みますけどね。」

「碧生くん、ずいぶんと詳しいんだな。中沢とも仲いいって?まだ若いのに。いつからやってるんだ?お堅いご家族が嘆くんじゃないか?」
疎外感でもあるのか、専務が偉そうにそんなことを言ってきた。

「別に。小遣いの範囲だし。んー、キャリアは4年ってとこかな。泉さんと水島のレースぐらいしか買わないけど。……布居さんは?水島がデビューしてからずっと?」

「うん。でも私も薫の応援車券だけ。それも100円とか。……100万円1点張りとかする真正のばくち打ちさんとはレベルが違い過ぎて。ね~?」
私は敢えて笑顔で碧生くんに同意を求めた。

「ね~。」
心得たもので、碧生くんもまた人懐っこい笑顔で答えてくれた。

……いや、チャラいイケメンだとは思ってたけど……こーゆーことやらせると、本気でカッコいいな、碧生くん。

多少ときめいたことが、しっかり専務には伝わってしまったらしい。

「まあ、遊びはココまでにして、仕事の話をするぞ。4月から、私が君たちの直属上司になる。このフロアの一番奥の空き室を資料庫に、私のこの部屋のこっち隣の部屋を社史編纂室にする。……もう聞いたか?」

珍しく威厳をまとって専務はそう言った。
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