専務と心中!
「だって、めっちゃ本気やん?専務。……布居さんも脈あはらりそうやのに。」

首を傾げた遥香さんに、私は聞いてみた。

「本当に?そう思いますか?……私には、正直なところ、専務のあの明け透けな態度がちょっと……しんどくて。……会社なのに。」

そう言ったら、勝手にため息がついて出てきた。

あー、と2人はそれぞれの音域の低い声で、相づちを打ってくれた。

「わかるよ。ある種の日本人女性は、オープンな愛情表現にどん引きするよね。不信感をこじらせて不快感すら覚えるらしいね。……俺の愛妻も、心を開いてくれるまで時間かかったよー。まあ、その過程もかわいかったけどね。」
碧生くんは、いけしゃあしゃあとノロケた。

……そうか。
そういや、碧生くんも外国育ちで、なんでもかんでも明るいもんね。
専務と大差ないぐらい恥ずかしいことを言ったりしたりしちゃうのかもしれない。

ふんふん頷いてると、同じように頷きながら、遥香さんが口を開いた。

「わかるわー。てか、日本人男性もそうよ。押しても押しても、無視されたり、誤魔化されたり。特に人前ではダメなのよね。私語どころか顔も見てくれなくて……。オフィスラブなんて、却って淋しくてしんどい日々やったわ。」

……へ?

「遥香さん、旦那さまとオフィスラブだったんですか?」
思わず、食いついた。

遥香さんは、ニッコリと、満面の笑みで語ってくれた。
「最初は違いました。私が一目惚れして、主人の勤め先にボランティアからアルバイトで入り込んだんです。そこからは、毎日毎日、主人を追いかけ回して猛アプローチしましたよ。」

すごいー!

「バイタリティーありますねー!すごーい!でも、遥香さんぐらいナイスバデイな美人さんなら、すぐに陥落できたんじゃないですか?」

パチパチと拍手してそう言った。

でも遥香さんの顔に、さっと恥じらいの影がさした。

あれ?
順風満帆じゃなかった?

遥香さんは水を一口飲んでから、言った。
「すぐ落とせると思ってました。主人には当時、他に恋人がいたのに。……あの頃の自分の傲慢な自惚れを思い出すと……恥ずかしくて恥ずかしくて。」

か、かわいい!
本気で、恥ずかしがってはる!

「えー、でも遥香さん、マジ、素敵。男性受けのいい美人さん!」

そう誉めたら、遥香さんは頭をかいた。
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