専務と心中!
反応に困ってたら、代わりに碧生くんがつぶやいた。

「……なるほど。じゃあ、統がこのまま布居さんに迷惑かけ続けると、布居さんは、周囲への気遣いから寿退社一直線というわけか。」
「さすがにそれはちょっと勘弁だわ。……イイ歳して、何であんなに直情的なんだろう。」

ガックリうなだれてそう愚痴ると、2人はケロッとした顔で口々に言った。

「好きだからだろ?」
「それだけ本気なんやと思いますよ?」

……なるほど。

このヒトたち……専務も含めて、編纂室内は私以外みんな攻める恋愛スタイルなわけだ。

てか、私も積極的に、浮かれてラブフェアを楽しんできたはずなのに、完全に負けてる。
自分がまるで草食系かのように勘違いしちゃいそう。

けっこう肉食系、それも野獣系だったはずなんだけどなあ。



会社に戻ると、峠さんがいらしていた。
「こんにちは。布居さん。お引越ご苦労様でした。お勉強は進んでますか?」

柔らかい笑顔に釣られて私も自然とほほえんだ。

「こんにちは。いつもありがとうございます。……今日は?どうされましたか?」
「……ちよっと、人を案内して……」

言葉が止まり、峠さんは少し首を傾げた。
視線の先には、遥香さん!

……やっぱり遙香さんって、男性の目を引くタイプなんだわ~。

「美人さんでしょ?今日からアルバイトで来ていただくことになった、上垣遥香さんです。遥香さん、こちら、我が社の美術館の学芸員の峠先生。」

そう紹介すると、峠さんはさらに不思議そうに首をひねった。

「上垣さん?……川村さん?」

そう尋ねられ、遥香さんはパッと顔を輝かせた。
「はい!川村です!……学会や論文は、旧姓のまま発表してるんです。」
後半は私に向けて、遥香さんは説明してくれていた。

「あぁ。やっぱり。川村さん。その節は、妻がご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」

峠さんはそう言って、深々と頭を下げた。

妻?
峠さんの奥様?

「そんな!とんでもありません。……大切な時期にお身体にご負担をおかけしてしまって、こちらこそ、申し訳ありませんでした。無事にご出産されたとうかがって、事務局一同、ホッとしたんですよ。」
遥香さんもそう言って、頭を下げた。

キョトンとしてる私に、峠さんが説明してくれた。
「昨年の秋に妻が学会で報告させていただいたのですが……質疑応答で興奮してしまって……そのまま切迫早産で入院です。」

「え!大変!……あ、でも、ご無事だったんですよね!よかったぁ。」

……てか、学会?
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