専務と心中!
「あの。峠先生の奥様も学者さんでいらっしゃるんですか?……職場恋愛?」

思わず余計なことまで聞いてしまった。

後ろでぷぷっと碧生くんが笑う。
遥香さんまで、半笑いになった。

1人、意味がわからない峠さんが、遥香さんに助けを求めて視線を彷徨わせた。

「ふふ。今日のランチトークテーマは、布居さんのオフィスラブの応援だったんですよ。……お二人は、確か、ゼミが同じだったんですよね?」
遥香さんが代わりにつっこんで聞いてくれた。

峠さんの頬がうっすらと染まった。

照れてらっしゃる!?
かわいいっ!

「よくご存知ですね。」
「私、文化財保護課でもアルバイトしてたんですよー。吉岡先生から聞きました。」
「吉岡先生……。あーそうですか。それは、困りましたね。」

峠さんは、本当に困っているらしい。

吉岡先生って誰だろう。

「吉岡先生は、中世芸能史の研究者です。優秀な先生ですよ……ゲイだけど。」

どうやらコーヒーを入れてくれてるらしい碧生くんが、小声で私に教えてくれた。

ゲイ、ね。
ははは。

「吉岡先生は、私の親友と親しいのと、女性には必要以上に厳しいかたなので、私はいつも怒られてます。」

ばつが悪そうな峠さんを、遥香さんがフォローした。
「むしろ峠さんを買ってらっしゃるから歯がゆいみたいですよ?峠さんが奥様を甘やかしすぎるって。家事を全部、峠さんがされてるって。奥様、お幸せですよねー。」

……マジで?
峠さん、どんだけできたヒトなんだ。
仕事でも評価されてるのに、家事もできるの?

私なんか、家のことは全部母親任せなのに。

「よく言い過ぎですよ。妻は優秀な研究者だけど、私はせいぜい便利屋ですのに。それに妻は身体が弱くて、市販の料理は受け付けなくて。なのに子供のために無理やり三食きっちり食べる努力をしてがんばってくれてるので、私も出来る限り助けたいだけです。」

……いやいやいや。
謙遜し過ぎでしょ、それ。

プライベートを全く知らなかった私でもわかるわ。
峠さんの謙虚さと、奥様への愛情の深さ。

「じゃあ、峠先生が先に好きになったんですか?ゼミで奥様に猛アタックされたんですか?」

峠さんは、マジマジと私を見た。

そして碧生くんの入れてくれたコーヒーに口を付けてから、静かにほほえんで口を開いた。
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