吸血鬼の栄養学、狼男の生態学

ここにいて。
出かかったその言葉をすんでのところで呑み込む。

きっと、病気のせいで心が弱くなっているだけなんだ。顔や身体が熱くなってきたのはミルクのせい。
年甲斐もない自分が恥ずかしくて、布団を頭から被った。

「――ありがとう」

布団の中からくぐもる声でお礼を言うと、ベッドの端が沈む。

「なんで知らせてくれなかったんです?」

彼の少し怒っているような声に布団を目まで下げると、案の定、への字に口を結んでいて。

「連絡先を知らなかったから。無駄足、踏ませちゃったね。忙しい中せっかく来てくれても、何も用意できかったよ」

「そんな事を言っているんじゃなくてっ!」

天井の灯りを背負った筧君の暗い顔が視界いっぱいに広がった。あぁ、また蒼いじゃない。

「やっぱり、ご飯じゃ足りないのかな?」

「……何?」

布団から腕を出し彼の青ざめた頬に手を伸ばすと、ひんやりと心地よい。

「いいよ、少しだけなら。クリスマスのごちそう、用意できなかったからね。ちょっと薬臭いかも知れないけど」

インフルのウイルスって血液感染もするんだっけ?吸血鬼になったら、仕事はどうしよう。
現実と非現実の入り交じった疑問が、ぽかぽかと心地好い頭の中をぐるぐると巡る。
首を傾けて頸動脈を彼に差し出し、瞳を閉じた。

「本当に、いいの?」

掠れて硬い彼の声が首筋に吐息となって届き、頬に触れる髪がくすぐったい。

「どうぞ。でも200mlくらいにしてね。400はキツいかも」

成分吸血ってできないのかなぁ。なんて、おかしな考えが浮かんだ瞬間。
首筋に柔らかなものが押し当てられ、続いてチリっとした痛みを感じた。

ほどなく放れたその感触に、ほんのちょっとだけ名残惜しさを覚えながら、意識がフワフワの綿菓子のように蕩けていく。

「ごちそうさま」という甘い響きと共に……

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