吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
◇ ◇ ◇
昼時の騒がしい学食。
『半額』と赤いシールの張られた袋を、パンッと景気よく開けた。
「創祐(そうすけ)、なんだそれ?」
B定食を食べていた宮間(みやま)が、怪訝な顔で俺の手元を覗きこむ。
「ん?チョコチップメロンパン」
「じゃなくて、そのシールだよ」
「おやおや~。君は大学4回生にもなって、こんな簡単な漢字も読めないのかね」
なかなか単位をくれないことで有名な教授の厭みな口まねをしてみれば、メロンパンをごっそりと千切り取られた。
「あぁっ!俺の貴重な食糧が」
周りが注目するほどの大声を張り上げると、宮間は放るようにして返してくる。食べ物は投げちゃいけないんだぞ。
「引っ越しのせいで、金がないのか」
急に同情的な声音になって、自分のトレイをこっちへ滑らした。
「良かったら食うか?まだほとんど手をつけてないから」
「いらない。だってそれ、青椒肉絲じゃん。ピーマン嫌い」
「はぁ?なにガキみたいなこと言ってんだ。旨いぞ、ピーマン。ほれほれ」
緑色も鮮やかなピーマンを箸に摘まんで押しつけてくる。余計なお世話だ。
顔を背けて、俺はパンに齧り付いた。と、
けほっ!
喉の奥から咳が上がってきて、宮間が飲んでいたペットボトルのお茶を奪って流し込む。
「おまえな~」
返そうとしたボトルを片手で拒み、「やる」と嫌そうな顔をした。儲けた!
まだいがらっぽい喉を潤しながら、パンを完食。
んんっ。
まだ、なんかイガイガする。最近、急に冷え込んできたから風邪でもひいたかな?
家賃の安さと立地だけで選んだ新居は、築30年以上の木造アパート。もちろん、エアコンなんて完備してない。
「こたつでも買おうかな」
ぼそりと呟いて、今月の懐具合に思いを馳せる。
あっ、ダメだ、足んない!テーブルに突っ伏した俺の頭を、宮間が丸めた旅行会社のパンフで叩く。
「その様子じゃ、卒業旅行とか、とてもじゃないけど無理そうだな」
「う゛~」
「親父さんに謝れば?ちゃんと話せば許してもらえるよ、きっと」
いや、それは絶対無理だし、嫌だ。
俺は、空腹を訴えて鳴る腹の虫を溜息でごまかした。