吸血鬼の栄養学、狼男の生態学



最近はネットや郵送などで映像を観ることができるから、実店舗の方はなかなか厳しいものがあるようで、バイト人員も最低限に抑えられていた。


こっちでの就職を決めてから、実家からの仕送りがストップしている。

それまでの親名義で契約していた駅近築浅オートロック、1LDKのマンションからの引っ越しを余儀なくされた俺は、4月に無事会社員となるまで、なんとか食い繋いでいかなければならなかった。

だから、少々の風邪くらいで休んでいる場合じゃなくて。

日に日に酷くなる咳で喉を痛め、腹筋は筋肉痛だ。せめてもの救いは、熱が出ていないこと。
気合いで乗り切ろうにも、腹が減っては風邪菌とも満足に戦えずにいた。

見兼ねた店長が俺を接客から避けて、裏仕事や棚の整理に回してくれた。

パッケージケースを陳列棚に並べながら仕事中ということも忘れて、裏に書かれた作品の概要をついつい読み耽る。

自分が生まれる前の作品が、今もきれいな画像で観ることができるのは素直に嬉しい。

家に居ながらネットで観るのも便利だけれど、こうして当てもなく探して思わぬ掘り出し物をみつけられるのは、店に足を運ぶ醍醐味だと思うんだけどな。

ホラー映画の棚の前でタイトルを指で辿れば、おかしなタイトルに興味をそそられる。

『仮装ゾンビの学園祭』って、とってもB級っぽい。思わずガン見していると、「あの?」背中に声がかけられて。

「ばい゛っ゛?」

仕事の手を止めていた若干の気まずさが上乗せされて、喉に絡んだガラガラ声が頭のてっぺんから飛び出した。

慌てて振り向くと、仕事帰りのOLさんといった体のおねえさん――間違いなく俺よりは年上だろう――が、眉をひそめて佇んでいる。


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