吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
◇ ◇ ◇
相変わらずの咳と声に加え、今日は熱もあるようで、なんだか頭が働かない。卒論の追い込みで少し無理をしているせいか、ちっとも良くならないでいた。
それでも無理矢理出勤してみれば、
「風邪を治すまで、出てくるな」
とうとう店長から通告を受けてしまう始末。早いこと治さないと文字通り死活問題だ。
日が沈みかけた道を、ボロアパートまでトボトボと歩く。
すっかり季節は冬には入っていて、つい先日、店でも『クリスマス特集』の棚を作ったくらい。
丸めた背中を追い越してゆく空っ風に震え、ポケットに手を入れると、何かがカサリと指先に触れ取り出してみる。
あぁ、この間の・・・・・・。
おねえさんに貰ったのど飴の小袋を破りポイッと口に放り込むと、咳と乾燥でガラガラの喉にじわりと甘さが染み渡った。
そういえば、この近くに診療所があるって言っていたな。下手に市販の風邪薬を飲むより、処方薬の方が治りも早いかもしれない。
携帯で時間を確認すれば、もうすぐ18時。まだ受付は大丈夫だろうか?
俺は足を速めて自宅に寄り、虎の子の諭吉様と健康保険証を握りしめ、診療所を目指した。
終了時間を気にするあまり、息切れがするほど急ぎ足で歩いたのが裏目に出る。
ようやく見つけた、灯りのともる診療所の看板を目の前にして力尽きてしまった。
車椅子用に傾斜が付けられたスロープの手摺りに寄りかかって、看板に目をやると、診療受付時間はもう過ぎている。諦めて家に引き返そうにも、膝が笑って言うことを聞いてくれない。
残っていたなけなしの体力を使い果たした俺は、へなへなと座り込んでしまった。
薄ら汗をかいた身体を冷たい冬の風が撫でていく。
マズい。このままでは悪化してしまう。
そう思いながらも、重い身体は冷たいコンクリートの上から動こうとしない。こんな街中で凍死ってできるものなのか?
身体と一緒に思考も凍りかけた、その時。
「おいっ!おまえさん、大丈夫かい?」
項垂れた頭の上に嗄れ声が落ちてきて、ほどなく自分の周りが騒がしくなった。