吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
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予想外の提案に心拍数を増加させながら、真澄さんの後についていく。オートロックをくぐった4階の角部屋が、彼女の自宅だった。
一人暮らし世帯が中心のマンションのようで間取りは1LDK。俺が以前住んでいた部屋と似ている。
恥ずかしながら女子の一人暮らしの部屋に入るのなんて初めてで、発熱とは別の汗が手のひらに滲んできた。
リビングのど真ん中に設えられたこたつの席を勧めて、真澄さんは引き戸で仕切られた隣の部屋――寝室へと消える。
微かに聞こえるガサゴソという物音に緊張しつつ、部屋中に所在なく視線を彷徨わせていると、部屋着に着替えエプロンを着けた真澄さんが戻ってきた。
「すぐ作るから待ってて。辛いようだったら寝ていてもいいから」
背中まである髪をひとまとめに括ると、小さな台所に立つ。
リビングの床からは彼女の姿は見えなくて、懐かしささえ感じる包丁の音が時々聞こえてきていた。
包丁が刻むリズムと足元の温かさに、自然と瞼が重くなる。
初めてお邪魔する家。しかも、若い女性の部屋だというのに。
頑張れ、俺!
必死で眠気と戦っていると、目の前でしたガタンという音に、傾きかけていた首が真っ直ぐになる。
「あ、ごめんね。起こしちゃった?できたんだけど、食べられそう?」
こたつの上にカセットコンロを準備しながら聞かれれば、一も二もなく壊れた玩具のように首を振る。
「もちろんです!なにか手伝うこと、ありますか!?」
といっても、俺ができるのは、コンロに火を点けるくらい?意気揚々とスイッチに手を掛けて待ち構える。
先にガスコンロであらかた火を通した熱々の土鍋が運ばれ、スイッチオン!すぐにグツグツと音を立て始め、良い匂いが湯気とともに上った。
「好き嫌いがわからなかったから、とりあえずお鍋にしちゃったけど、大丈夫?」
「全然っ!大好きです!!」
肉に魚介。どれも、美味しそうに出汁のお風呂に浸かって揺れている。好みがわからないからと、取り箸を渡された。本音を言わせてもらえると、俺にとってはこれがありがたい。
せっせと好きな具材だけを器に移す。ホカホカのご飯と一緒に頂けば、欲しくなるアルコール・・・・・・は、さすがに出てこなかった。
途中、真澄さんは何度も台所にいき具材を追加してくれて。「遠慮しないで」の言葉に甘え、腹がはち切れんばかりに食べさせてもらった。