吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
「じゃあ、あなたが作ってください。食費は払います。一人分だとかえって不経済だ」
「どうして、私が・・・・・・?」
訝しげに目を細くする彼女に、俺はニヤリと口角を上げた。
「白菜もキャベツも、切ってあるのを買うより丸ごとの方が割安でしょ?でも、一人じゃなかなか使い切れないし、鮮度も栄養価も落ちる」
「それはそうだけど」
八百屋の息子をナメるなよ。
「こうして知り合ったのも何かの縁。ここはひとつ、持ちつ持たれつでいきませんか?」
こうして俺は、またここへ来る口実と栄養源をゲットした。
家まで送ると言い張る彼女を、どうにか断って家路を急ぐ。
まだ身体が温かいうちに到着すれば、灯りを点けるのももどかしく携帯を取りだしてメールを打った。
『野菜送れ 創祐』
電報のような文の送信先は田舎の祖母ちゃん。最近の七十代はスマホを使いこなす強者揃いだ。
親父たちが辞めてしまった畑を祖父ちゃんと細々と続けていて、実家で食べる野菜はほぼ自給自足できている。余った分は店頭にも並んで、すこぶる評判が良い。
ときどき、俺のところにも山と送ってくれていたけど、いままではほとんど自家消費せず、友だちに配るか腐らせていた。
可愛い孫の頼みとあらば、嬉々として、段ボールいっぱいの採りたて新鮮野菜のセットを送ってくるに違いない。
せんべい布団を敷いて風呂に湯を溜めていると、メールの着信音が鳴る。
『OK』
動く絵文字付きの返信だった。