吸血鬼の栄養学、狼男の生態学



 ◇


食事の世話をしてもらうに当り最初に約束させられたのは、『出された食材に文句を言わないこと』だった。
一瞬顔を引きつらせた俺に、ビシッと人差し指を突きつけて、

「アレルギーとかならともかく、ただのわがままなんて言語道断!この広い地球に、食べる物がなくて苦しんでいる人たちがどれだけいると思っているの?
不平不満があるなら、この話は綺麗さっぱりなかったことにするわよ」

ぐうの音も出せない世界規模の話で諭されてしまえば、もう俺に否やをいう権利など欠片もなくなっていた。

それに。

自分でも不思議なことに、見るのも嫌なピーマンやホウレン草も真澄さんが作る料理になると、なぜか食べられる。もちろんまだ『大好き!』とまでにはならないけど、口にするのに抵抗がなくなってきていた。

これが『恋の魔法』なのだろうか。
ん?恋??

シャーペンの尻で額をトントン叩きながら眉間に深くシワを刻む姿を、宮間が訝しんだようだ。

「なに、卒論がそんなに行き詰まってるのか?」

俺の前の席に後ろ向きに座って手元を覗きこむ。

「――まぁ、な」

提出間近になって、大幅な修正箇所がみつかったのは確かだけど、今現在の悩みは少しばかり違っていた。

たが俺の生返事に合点がいったようで、それ以上は追及してこない。

「それにしても、おまえ最近、顔色良いよな。ちゃんと食ってるんだ」

「まぁな」

今度の返事にはにまりとした笑顔が付いた。宮間は、それにはなぜか目聡く反応を示す。

「・・・・・・もしかして、手料理を振る舞ってくれる彼女でもできたとか?」

「う~ん、彼女というわけではない、なぁ」

腕を組んで考えこむ俺に、宮間は眼鏡の奥の目を輝かせ、身を乗り出してきた。

「なんだよ、はっきりしないな。愛の伝道師、この宮間様にすべてを洗いざらい話してみなされ」

とうとつに胡散臭い肩書きを冠した友人に促されるまま、俺はここ数日の出来事を話し始めた。



< 24 / 40 >

この作品をシェア

pagetop