吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
聞き終えた宮間は深く溜息を吐く。
「そりゃ、完全に脈なしだね」
「はっ?なんで?どの辺が!?」
思わぬ一言に焦った俺は大声を張り上げてしまい、周囲の冷たい視線を浴びる。まぁまぁと宮間に肩を押されて再び腰を下ろすと、鼻がくっつきそうなほど顔を近づけられた。
「だって、その人って30才なんだよな?」
渋い顔の彼が声を潜めて確認するので、コクンと頷いた。それがなにか?
「するなと言っても結婚を意識する年齢だぞ。もしその気があるなら、向こうから何かしらのアクションを起こしてくるはずじゃないか」
「いきなり結婚っ!?」
また叫びそうになる俺の口が、宮間のごつい手で塞がれる。
「ほら、そういう反応になるだろう?まだ就職もしていない学生なんか、あっちは付き合う対象と思ってないんじゃないかな。
そうでなければ、夜に一人暮らしの部屋に平気で入れるなんて、よほどの遊び人か・・・・・・」
あんまりな言い様に俺が目をつり上げたのをみて、宮間が慌てて付け加えた。
「――おまえを男としてみていないか、だな」
気の毒そうに、がくりと落とした肩を叩かれれば、すっかり治ったはずの風邪がぶり返したように頭痛を覚え。
いまさらながらに自覚した恋心が、いきなり大きな壁にぶち当たったことを思い知らされた。
◇
祖母ちゃんは、予想に反せず、野菜セットを週2ペースで送ってきてくれていた。こんなに頻繁だと、親父たちにばれているんじゃないかと冷や汗ものだけど、今のところはなんの音沙汰もない。
今日も、届いたばかりの青々しいホウレン草の束と葉っぱがついたままの俺の腕より太い大根を持って、真澄さんのマンションを訪ねていった。
バイト終わりで時計はすでに22時を回っている。女性の部屋を訪れるには遅い時間だけど、彼女の方がそれでも構わないと言ってくれたので、すっかり甘えさせてもらっていた。
前もって予定を伝えておけば、お邪魔してごちそうになったり、総菜がたっぷりと詰められた容器を渡されるだけのときもある。
こんな時間だから、あっちはとっくに食事も風呂もすませていることも多い。
「こんばんは」
言われてみれば確かに、付き合って数年の恋人同士ならまだしも、気がある男の前に出る格好じゃないよな。