吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
真澄さんは、いつもの部屋着――有り体に言ってしまえばスウェットの上下――に、眉だけ描いたほぼすっぴんと覚しき顔で、出迎えてくれて。そう考えると、宮間の言い分が正しいような気がして鬱々とする。
食費代わりの野菜を手渡すと、俺の健康を気遣って向けてくれる言葉さえ、いまは素直に聞く余裕が持てないでいた。
あまつさえ俺がここに来る理由をなくすようなことを言われれば、ついむきになって、
「それじゃ、ダメです。真澄さんの作った料理が良いんですっ!」
言ってしまってから、ガキっぽいことをしたと項垂れる。
こんな俺だからダメなのか。
栄養満点の食事の後に出された、デザートのドライフルーツ入りヨーグルトをグルグルとかき混ぜながら反省していると、視線を感じて顔を上げた。
「え?何ですか」
「こんなにいろいろ考えて鉄分を摂らせてるのに、まだ白いな~って」
彼女の手が伸びてきて、ほっそりとした指先が顔に触れたかと思うと、下瞼をグイッと下げる。
吐息が触れんばかりに顔を近づけて覗き込まれれば、ふわりと石鹸の香りが鼻をくすぐり――
「俺の貧血を治せるのは、違うご馳走だから」
一瞬にして理性が吹っ飛んだ俺は、気づけば彼女の細い手首を握り締めていた。
「な…に……?」
驚く真澄さんから上擦った甘い声が零れ、俺のいけない加虐心を煽ってくる。
ふいに彼女と初めて会った日のことを思い出し、にたりと口の端を上げた。
「実は俺、吸血鬼なんです。だから真澄さんの血、吸わせて下さい」
我ながらバカなことを言っていると思う。だけど、まともにいっても相手をしてもらえないなら、搦め手から攻めるしかないじゃないか。
彼女は呆れたのかバカにしているのか、動きを止めた。
この際、なんだっていい。俺はおもむろに、その白く滑らかな肌をみせる首筋へと顔を寄せていった。