吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
「――っ!?とにかく、ここ開けて下さい!!」
「でも……」
エントランスいっぱいに響く声に返ってきた、渋る答えが俺を苛立たせる。
「開けてくれないと、表から大声で叫びますよ?」
いまだって十分目立つ声のはず。静閑な住宅街の聖なる夜に、個人情報だだ漏れしても良いんですか?
なかば脅迫じみた口調で押せば、ようやくロックが解除され。呑気にエレベータを待ってなんかいられずに階段を駆け上った。
ドアフォンの連打で開けられたドアに身体を滑り込ませると、面やつれした真澄さんが力なく立っていて、ぞわりと心臓が冷たいもので撫で上げる。
その儚げな姿に、浮かれていた少し前までの自分の首を絞めたくなった。
「熱は?」
目元だけほんのりと赤みが差した青白い額に手を当てれば、即座に熱が伝わってくる。
「あぁ、ちょっと熱いかな。とにかく中に入って温かくして」
「えぇっと、伝染るからって言ったよね?」
この期に及んでまだ駄々を捏ねる真澄さんの、暖かいを通り越して熱い手を掴んだ。
「そんな事、病人が気にしなくて良いんです。ほら、早くベッドに戻って」
とにかく休ませようと手を引く。
ところが真澄さんは、見るからに具合が悪そうなのに、俺がすっかり存在を忘れ小脇に抱えたままになっていた箱が気になるらしい。
さすがの目敏さは、女子力の高さが成せる技なのかと、穿ち過ぎていたとしても、惚れた欲目と許して欲しい。
「それ、なに?」
それにしても、こんなときに決まりが悪いったらこの上ない。
慌てて箱へ戻したために横倒しになっていたそれを、立て直して差し出した。
「クリスマスプレゼントです」
「……ありがとう」
微妙な反応に肩を落としそうになったけど、ほどなく熱で潤んだ目が緩く弧を描くのが見えホッと安堵する。
すでに溶け始めていたそれを、ありがたくも冷凍庫へ入れようとする彼女を止めた。
そんなことをされたら、もう一つのサプライズに気付いてもらえなくなる。
「せっかく可愛いのに」と口を尖らせて残念がるあなたの方が、何倍も可愛いです。
訝かりながらも洗面器を受け皿にして出窓に飾ってくれた彼女を、寝室のベッドに押し込むと、厳重に布団を被せた。
「何か食べました?薬は?」
「飲んだよ。食べ物は……作らなくっちゃ無い」
うっ、作るのかぁ。
初めて入った寝室の天井を仰ぎ見た。