吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
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寝不足と疲労、エアコンと加湿器で快適に保たれた室内。それに規則正しく聞こえてくる可愛らしい寝息のリズムが加われば、さすがの俺も意識を保つことが難しく。
図らずも初のお泊まりだというのに、いつの間にかベッドに寄りかかって眠ってしまっていた。
不自然な体勢からくる身体の痛みと、身動ぎする気配で目を覚ます。
だけど、怠さの残る身体はまだ覚醒してはくれなかった。
怠惰に微睡んでいるとふわりと身体に毛布がかかり、真澄さんが起き上がったことがわかった。
彼女のぬくもりの名残に包まれながら薄目を開けると、窓辺で朝日を浴びる眩しい姿が映る。
あ、もう片方のサプライズに気づいたんだ。
雪で作ったダルマの中に隠した、俺からの心ばかりのプレゼント。
雪解け水の中から拾い上げたそれを日の光に翳して微笑んでいる。
その顔にはもう、昨夜のようにやつれた影は見当たらなかった。
「おはようございます。調子、どうですか?」
たまらず声をかけると、少し驚いたように振り返る。
「おはよう。うん、だいぶ良いみたい。これって私に?」
指先にチェーンを掛けて作り物の雪の結晶を揺らす。
「もちろん。クリスマスプレゼントって言いましたよね」
彼女の手からペンダントを受け取ると、細い首に腕を回して着けてあげた。
「ニンニクネックレスなんかより、ずっとよく似合います。バイトを増やして頑張った甲斐がありました」
うん、我ながらいいセンスだ。
自己満足に浸っていれば、額に八の字を描く彼女がいる。
「もしかして。忙しいって、このため!?」
「今、親に仕送りを止められてて。ちょっと無理しちゃいました」
でも、嬉しそうにはにかんだ真澄さんの顔を見ることができたから、疲れなんてどこかへ吹っ飛んじゃいました。
それにきっと、社会に出れば、こんなことよりもっとずっとキツいことが待ち構えているはずで。
あなたに認めてもらえる大人の男になれるまで、へこたれたりなんかしませんよ。
とりあえずは正月休みに田舎に帰って、祖母ちゃんたちに礼を言って、親父とちゃんと腹を割って話をしよう。
人知れず芽生えた志を胸に刻んでいると、首に手を添えた複雑な面持ちの真澄さんが鏡に映っていた。