吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
もう『予約』に気づいたらしい。
「今日も良い天気ですね」
気まずさに俺は、窓の外に広がるキンと冷えた冬の青空に目を向けごまかしたけど、そうは問屋が卸してはくれるはずもなく。
「――最近の吸血鬼は、日を浴びても灰にならないのかなぁ?何だったら、心臓に杭を打ってみる?」
こっちを向いた彼女は、またしても俺の墓穴を掘り返す。
お願いですからもう、いいかげんに埋めさせてください!
「や、嫌だなぁ。真澄さんも冗談って言ってたじゃないですか」
にじり寄ってくる彼女に思わず腰を引く。
こういう迫られ方は、男としては不本意です。
「何であんなバカバカしい嘘っ!?」
眦をつり上げた。
いや、ね。だってさぁ。
「そういうのが好きなのかなって。ほら、あの時借りてたから」
人ならざる者との、めくるめく甘い甘いラブストーリーは、年齢の関係なく婦女子にとって鉄板だ。
暗にそう指摘してみれば、予想に違わず、上がっていた目尻が緩んでみるみる朱を刷いてゆく。
そんな彼女を目の当たりにしてしまったら、俺はもう降参するしか術がない。
だから――。
俺は、発熱とは違う熱で紅く染まった彼女の頬を両手で包む。
「ねぇ。俺と永遠の恋、してくれませんか?」
件(くだん)の映画のキャッチコピーをお借りして、一世一代の告白を試みた。
ハリウッド俳優には負けるかもしれないけれど、あなたが望むなら、吸血鬼でも狼男でも、なんにだってなってみせる。
あ、オオカミにだったら、いますぐにでもなれますが?
俺の邪な思いを見透かしたように、彼女の腕が俺の首に絡みつく。
近づいてくる小さな頭に、柄にもなく鼓動が踊り狂っていると、真澄さんは熱い吐息がかかるほど首元に唇を寄せてきて。
・・・・・・カプリと甘噛みした。
参ったな。
血なんか吸われなくっても、俺はとっくにあなたの虜なんですから。
―― 創祐Side 完 ――