COLORS
罰の悪い、翌日。
「遅いよ、すみれ」
「ずっと待ってたの!?」
目の腫れと、心の靄が引くまで、ベッドに潜り込んでいた。
それから、
落とされた紅いリボンを拾い、鞄を持って、玄関を出た時、太陽は真上、とっくに昼を越えていた。
「すみれのせいで、遅刻」
「だったら先に行けばいいのに……」
至って普段と変わらない良の態度に拍子抜けしながら、良のせいでしょ、と返すはずの言葉を飲み込む。
それは、
まるで何事もなかったかのような流れに流される方が、楽な気がしたから。
「一緒に登校するのも、ガキの頃からの習慣だから」
「……だから、って」
そして、
昨日の出来事には触れないまま、いつものように、取り留めのない会話をしながら、学校までの道程を、二人で歩く。
そう、
まるで、何事もなかったかのように。
「こんな時間に、二人揃って遅刻とか、ゴメンナサイじゃ済まないよね」
大胆な遅刻をしでかした私たちは、案の定、反省文の提出を課され、放課後の教室で机を向き合わせている。
けれど、どう反省すればいいのかわからない……
遅刻の原因を辿れば、嫌でも昨日の良を思い出す。
組み敷かれた感触とか、
繰り返していた言葉とか、
身体の熱さとか、
全てが生々しく蘇り、堪らなくなる。
それなのに、
事の発端となった張本人は、目の前で、どこまでも冷静に、すらすらとペンを走らせている。
その瞬間、
腹立たしさが込み上げ、怒りが弾ける。
「良は、何を反省してるの?」
「遅刻したこと」
「ふざけないでよ!!」
結局、私は、何事もなかったことにはできないのだ。
「昨日のことなら、謝らないよ」
「どうして?」
もう、後戻りできないのなら、
せめて、真意を聞かせて欲しい。
「謝ったら、自分の気持ち、否定することになるから」
「どうして……」
「俺、すみれを捌け口になんてしてない」
「でも……良、何年も想ってる子がいるって……」
「何年も俺と一緒にいる、すみれなら、わかると思ってた」
そうして、
聞いた、答えは、
意外なような気もしたし、
当然なような気もした。
「ずっと、ずっと、すみれのことが好きだったんだよ」
そう、
何年も良と一緒にいる、私なら、わかる。
何年も良と一緒にいる存在なんて、私しか、いない。
「……だったら、先に言ってよ。あんな……あんなことする前に言ってよ!!」
それから、
怒りは矛先を失った後、どのような名の感情に形を変えたのかは、わからないけれど、
「私、初めてだったんだよ。キスも、あんなふうに触られるのも、全部、全部、初めてだったんだよ!!」
良の想いを知ってしまった以上、
「次、無理矢理ヤッたら、許さないから!!」
良の心とか、良の全て、
「……すみれ、それ、無理矢理じゃなかったらいいってこと?」
独占できるのは、私でなければ、
「勝手にすれば!!」
気が済まない。
「じゃあ、早く、帰ろ」
「わかってるよ……」
そうして、
私は、何とか反省文を綴り、
良と一緒に、教室を出る。
「……いいのかな、これで」
「べつに、反省文なんて形だけなんだから、何か書いてあればいいんだよ」
一途な想いと、
「そうだよね」
「ダメだって言われたら、書き直せばいいだろ」
まだ名のない感情。
「そうだね」
幼馴染み。
その一線を、
確かに越えた、私たちを見ていたのは、また、
朱い、
紅い、
赤い、
夕暮れ。
◇◆◇◆◇