COLORS
放課後、前原は、きちんと美術科準備室にやってきた。
「上野先生?」
カーテンの引かれた薄暗い室内を迷っている。
「 捕 ま え た 」
俺は、まんまと引っかかった獲物に詰め寄る。
「嘘だよ」
「嘘?」
「本当はね、ちゃんと、名前、書いてあったよ」
「だったら、どうして……」
前原の顔が、ようやく、警戒の色に染まっていく。
「俺さぁ、前原と遊んでみたくなって」
真ん丸の瞳は、ゆらゆら揺れている。
「ふざけないでよ!! ってとこから、全部、聞こえてたよ」
可愛らしい唇は、ふるふる震えている。
「喪失、おめでとう。もう初めてじゃなくなったんだから、これからは何だってできるね」
おもしろいくらい露骨に怯える前原の、やわらかな黒髪を掴んで、壁に叩きつける。
「ねぇ、先生とも、遊ぼうよ」
綺麗な子。
滅茶苦茶に傷つけてやりたくなるほど、
綺麗な、綺麗な子。
「どうして……私が……どうして……」
綺麗な小鳥は、この手の中。
「先生はね、君みたいな子が大好きで……大っ嫌いだから。可愛くて可愛くて、あああっ、憎ったらしい。この気持ち、わかる? わかんねーよなぁ!!」
耳障りなほど心地好い囀りを聞いたら、
一息に捻り潰して、
くしゃけた残骸を、
愛でてやろう。
「大丈夫。もう、誰としたって、何をしたって、ただの行為だ……」
俺は、ゆっくりと、じっくりと、前原に、詰め寄っていく。
「…………!!」
その時、
俺を、突き飛ばしたのは、
誰だ……
「最近、妙に浮かれてると思ったら、こういうことだったんだね」
「後藤……何で、ここに……」
「坂下君が前原さんを探してたから」
そうして、
俺を、殴り飛ばしたのは、
誰だ……
「上野、てめぇ!!」
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